『天使の翼』第7章(23)

 すぐにやれる事はすぐにやる。わたしがPOPSの白い封書と男爵のそれをどうやって照合するかを問うと、男爵から預かった白い封書のデジタル立体精密画像はすでにアケルナルの本庁に送った、
とまたしてもシャルルに一本取られた……
 「デイテ」
 これから先に起こることに思いの飛んでいたわたしは、我に返ってシャルルの顔を見た。
 「まだ大切なことが二つ残っている」
 「……」
 「ひとつは、もし、総支配人のもとから封書を回収できれば、当然、中身の確認もできる」
 わたしは、この当たり前の事実に意表を衝かれた。回収できる可能性をあまり信じていなかったので、思考が先へと進まなかったのかもしれない。――中身である用箋を見ることができれば、その筆跡・文体、さらに、どのような偽名を使っているかまで確認できる。
 「そして、もう一つは、悪の手下達の黒い宇宙船ともども、白い封書が散ってしまったとなると、公爵から文具商宛て、すぐにも発注が出る可能性がある」
 ……わたしの心の中に、推理の進展を頼もしく思う気持ちと同時に、すべてがその通りだったときの恐れ――いわく言いがたい、知らないまま真実から逃げていたい、という思いが浮かんだ。――真実が暴かれたとき、わたしの心に残るのは、救いなのか?――それとも、癒すことのできない傷だろうか?もし、その傷がいつまでも口を開いたまま、血を滴らせ続けることになれば、わたしの心は、わたしの肉体よりも先に死に至ることになるだろう。わたしの心が現実に耐えられるという保障は、どこにもない……