『天使の翼』第7章(21)
わたしは、思わず両手を打ち合わせたい気持ちだった。
シャルルは、頷いて――
「つまり、問題の白い封書は、今現在公爵の使用している公的・私的な封書とは違うかも知れないが、かつて公爵の使用していた、二十年前、三十年前のもの――もしかしたらもっと前のものと合致するかも知れない」
そういうこともありうる、と、シャルルの推論に感心していると、彼はさらに彼一流の駄目を押してきた。
「おそらく、公爵は、問題の白い封書を犯行に使うようになってから、普段使う封書のデザインを切り替えたと推測できる――そうじゃないとリスクが大きすぎる。そして、このことから、二つの点が導かれる。一点は、封書のデザインの切り替わった時期が犯行の始まった時期であるということ。もう一点は、仕様を変えたということを、公爵御用達の文具商は当然知っている、ということ」
シャルルの推理は、一気に捜査の核心に迫った。
「さらにうがった考えをするなら、犯行に使っている封書の予備がなくなったら、それを発注するのは、御用達の文具商をおいて他にない……」
問題は、どうやって文具商を調べるかだ。堂々と正面玄関から入っていく訳にはいかないのだ……
「……デイテ、もしかしたら、スカルラッティ公爵家の家政機関の構成員は、コスモス・カソリクスの僧官・修道女かも知れない」
「そうだわ」
わたしは、アケルナルの総大司教教皇猊下の夏の山荘で歌った時のことを思い出していた……猊下の身の回りのお世話をしていたのは、修道女であり、僧であった……だとすれば、アクィレイア大司教であるスカルラッティの家政機関も……
「スカルラッティ家は、僧官として栄達を極めた家であり、帝国宰相としての地位は、あくまで一時的なもの、パート・タイムといっては言い過ぎだけれども……」
「シャルル、あなた、そこまでの考えがあってジェーンと会合することにしたの?」
彼は、苦笑した。
「いやいや、単にヒントとなる話しを聞けるかも知れないと思っただけだよ」

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