『天使の翼』第7章(20)
……わたしのような吟遊詩人が曲想を練る時もそうだけれど、簡単なようでいて、実は斬新なアイデア、創造的な着想といったものは、何かのきっかけで、突然のように湧き出てくる。今がまさにそのような時なのか、シャルルが、また自分だけの思いに沈むような表情になり、そして、顔を上げた。
「白い封書のことだけれど――」
「『白い封書』……」
「犯人がスカルラッティ公爵だとして、公爵は、問題の白い封書を、吟遊詩人に対する死の招待状としてだけ使っているのだろうか?」
……そう言われてみれば……
「公爵が日常的に使っている公的あるいは私的な封書と同一のものという可能性もゼロではない……でも、それだと、あまりにもリスクが大き過ぎるし、もっと考えられることは――」
わたしは、身を乗り出すようにして聞き入った。
「そもそも、公爵の犯行パターンは、初めての犯行の時からほぼ固まっていたと思う。……目を付けた吟遊詩人を偽名を使った招待状で特定の場所へおびき出し、誘拐する――レプゴウ男爵などと競合した場合の犯行パターンは、あくまで例外的なものだ。……招待状は、吟遊詩人に対する死刑執行令状であり、犯罪者特有のグロテスクな美学に照らせば、一連の犯行の流れの中でも、外すことのできない重要な小道具であり、犯罪を構成する必須の要素だ。犯行のパターンは行動を重ねるにつれ多少は進化するだろうけれど、招待状の部分は、このおぞましい犯罪がこの世に産声を上げた時から変わっていないと思う。……君を前にしてこんなことは言いたくないけれど、招待状を発送すること自体に、公爵は犯罪的快楽を感じているはずだ」
わたしは、文字通り怖気を震った。
「だとすれば、招待状に使う白い封書は、時と場合によってころころと変わる間に合わせのものではありえないし、かなり前から、おそらく最初から、一貫して同じもの、同じ作りの封書が使われてきたはず。そして――」
「そして……」
「これが重要なんだけど、一番最初に使った封書は、前もって犯行のために準備していたものなどではなくて、手近にあった、公爵の日常的に使っていた封書である可能性がある」

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