『天使の翼』第7章(18)
「――男爵のリストは、おそらく彼が自分で作製したものだと思うけれど、実に詳細で、個々の吟遊詩人について、交通手段――男爵家が手配した船かどうかの分かっているものが網羅されていた。特に重要なのは、言うまでもなく、招待に応じながら姿を現さなかった吟遊詩人達だ……30年間で23人――その数が多いのか少ないのかは、なんとも言えない。ただ、23人のうち19人が女性だということは、明らかに、何らかの傾向を示している。そして――」
「そして?」
「19人は、全員、自分で渡航手段を選んでいる――考えてみれば、男爵家のチャーターした船が事故に遭っていれば、男爵の記憶に強い印象が残ってしまう。犯人としては、それは避けたいところだ……今回チャーター便に乗っていた僕たちが襲われたのは、例外中の例外だったんだ……」
わたしは、とてもいやな感じがした。
「君を怖がらせたくはないけれど、犯人は、よほど君に執着があったんだ……嫌なことを言ってごめんね」
「いいのよ。はっきり分かっていた方がいいわ」
シャルルは、心配げに頷いた。
「姿を現さなかった19人の女性吟遊詩人だけれど、彼女らがミロルダに姿を現す予定だった日取りの前後一か月分、ミロルダを中心とした100光年の範囲で、恒星間連絡船の事故が発生していないか調べたところ――」
わたしの胸の動悸は、頂点に達しようとしていた――
「11件が確認できた!」
「!」
統計学の素養のない者にも、その意味するところは明らかだ。今まで誰も調べてみようとしなかっただけで、真実は、すぐそこに転がっていたのだ。
シャルルは、粛々として報告を続けた。
「――11件のうち8件が不時着事故で、そのうち4件については、宇宙賊をはじめとした犯罪集団の関与が疑われている」
最早、わたしは、驚かなかった。
そして、ダメ押し――
「事故に遭った宇宙船の搭乗者名簿には、レプゴウ男爵家の招待した女性吟遊詩人7人が名を連ねている――」

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