『天使の翼』第7章(6)
――わたし達二人だけの力で、武器もなく、生身の人間二人の力で、大きな、巨大な動きを押しとどめることができるのだろうか?
あらゆるものが必要だ――
何事にも屈せぬ強い心――
勇気――
そして、知恵、が……
(神様、わたし達に力を与えてください……)
わたしは、生まれて初めて、と言って良いくらい真剣に願った。
「旗といえば――」
シャルルが、気を取り直したように、わたしの顔を見詰めた。
「もし、スカルラッティが在国していれば、司教座大聖堂に、司教旗がはためいているはずだ」
なる程そうだった。公爵の在不在を知ることは、意外と簡単なのだ……
「アクィレイア大聖堂へ」
シャルルの指示に、無人のロボット・エア・タクシーは、大きく進路を変えて、スピードを上げた。
「それにしても――」
シャルルが、眼下にどこまでも広がる巨大な都市の風景を、再び腕で指し示した。
「これだけ繁栄する星の領主が、もしかしたら社会病質者かも知れないとは……」
わたしも、同じことを考えていた。
「普通であれば、これ以上一体何を望むの?って所だわ」
「公爵が心の病に犯されているとすれば、それは、公爵にとっても恐ろしく不幸なことだ。でも、それは、この際問題ではない。多くの被害者がいるかも知れないのだからね」
公爵が犯罪者であるとすれば、彼に同情することは、特にわたしのような当事者にとっては、ほとんど不可能なことだ。
アクィレイア大聖堂は、コスモス・カソリクスの総本山、テラ・アケルナルの聖コスモス寺院より規模が大きいといわれている。
エアカー誘導路が旧市街の中核をなすひときわ歴史的な街区に入ると、俄かにアップ・ダウンとカーブが連続するようになり、そのめまぐるしく変わる風景の中に、遠く大聖堂の文字通り山のような巨大ドームが姿を現した。

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