『天使の翼』第7章(4)

 「僕は、スカルラッティの領星は初めてだけれど、これ程の――」
 そう言って、シャルルは、窓外の街並の方へ腕を振って見せた。
 わたし達――シャンタルとチャールズ――は、ロボット・エア・タクシーで市街を周回していた。前にも言ったけれど、わたしは、初めての街に降り立つと、まず、ぐるっと一周して、その街の印象をつかむことにしている……。もちろん、この街は大きすぎて『一周』は無理なので、シャルルと相談して、旧市街を中心に回遊していた。
 「――これ程の大国だとは……スカルラッティが第二帝国の譜代の貴族でなければ、即刻転封を命ずる必要があるね!」
 わたしは、思わず声を立てて笑っていた。
 「確かに、政治の第二センターが出来てはまずいわ。わたしが皇帝だったら、帝国政府高官は、在任中領星への国入りを禁ずるわね」
 「デイテ、君は、優秀な行政官になりうる政治的センスを持っている」
 わたしは、最初冗談だと思って聞き流していたが、シャルルは、まじめな顔をして話を続けた。
 「――現行の帝国官僚の服務規程には、准侯爵以上の勅任官に関して、勤務の形態に関する条項は一切ないんだ」

 「……休もうと思えば、いくらでも休めるってこと?」
 「その通り。極端なことを言えば、在国のままで、ワーム・ホール回線を使って、あるいは、代官をおいて、職務を遂行することだって不可能ではない」
 「本当にそうする人はいないでしょうけど……」
 「そうだね。でも、僕は、ある程度規則を設けないと、無視できない弊害が色々と出てくると思うな――」
 その時、わたしも、シャルルも、視界に飛び込んできたあるものに、ハッとして目を奪われていた……