『天使の翼』第7章(3)

 そして、それは、アクィレイアの第三の特徴そのものだ――アクィレイアは、宗教都市なのである――
 地球型の――つまり、人類の生息可能な、植民星化された――惑星系を五つも含んだスカルラッティ公爵領は、その歴史といい、物理的な規模といい、銀河帝国における屈指の先進星域だ。技術力・工業力の集積は圧倒的で――ちなみに、わたしの愛するエア・バイク・メーカーABC社の本社はアクィレイアにある――、この地にだけは栄枯盛衰の歴史法則が適用されないかのごとく、国富の衰える気配は全くない。しかし、どれほどの多星域企業が集中していようとも、アクィレイアの星としての特色の第一義から、宗教都市としてのそれを外すことはできない。
 アクィレイアは、スカルラッティ公爵領の首都であり、領主であるスカルラッティ公は、世襲のアクィレイア大司教なのだ。スカルラッティ公爵の長い長い肩書きの――もちろん、スカルラッティ公爵が一番目――二番目に、いとも誇らしげに挙げられる肩書きこそ、アクィレイア大司教。……アクィレイアが、宗教都市としての権威を出発点として発展してこれたこと、そして、スカルラッティ家が、コスモス・カソリクスの僧官として出世の階段を登りつめたことは、代々の公爵ご本人が一番良くご存知のはず……
 第四の特徴。栄達したスカルラッティ家から、今の十二世――正確には、クレメンス十二世――に至って、ついに帝国宰相を輩出したということ――

 アクィレイアは、世俗のことにも関わる政治都市だ。
 わたしのように歴史に関する読み物が大好きな人なら、お分かりいただけると思うけど、聖職者は、太古の昔から、外交を副業としてきた。言葉――多国語に長けるということは当然として、その学識、そして、国境を越えた宗派のネットワークが、聖職者をして、外交問題の頼りがいのあるエキスパートたらしめてきた。代々のスカルラッティ公も、ほとんど家風といってもよいけれど、若き日に保護国省ないしは植民星省に出仕し――銀河帝国は、ハロまで含めて、銀河系全域を支配しているので、いつか遠い将来、他の銀河の知的生命と遭遇する日でも来ない限り、外務省というものは存在しない――、外交官としてのキャリアを磨いたのである。外交は、政治の最先端、前線だ。まして、今、十二世は、帝国宰相として、皇帝陛下を除けば、政界のトップに君臨している……アクィレイアは、隠然たる帝国の第二首都の様相を呈している。大貴族はもとより、保護国の公式・非公式の公館が、それこそ軒を連ねて……