『天使の翼』第7章(1)
月の偉大さを忘れるなかれ。
――太陽の力だけでは、潮の満ち引きは生じない。
(銀河帝国第一王朝期の詩人)
今や、わたしにとって、『旅』という言葉は、『探索』という言葉とシノニムだった。
旅をするという事は、すなわち、積年の謎を解き明かすという事であり、今のところは、わたしの個人的な問題に係わることが、吟遊詩人としての日常の活動を通してサンス大公国へと接近する、という当初の目論見の範疇に入っていた……。本当にそうなのか、単に回り道に過ぎない――それも、危険な回り道ではないのか、いくら、相手の方から仕掛けてきたことで、わたし達は巻き込まれたのだとは言っても、内心では、申し訳ない気持ちがいっぱいだ。シャルルには、いくら感謝してもし足りない。
わたしとシャルルは、数奇な運命に導かれて、司教座惑星アクィレイアに降り立った。
……わたしと皇帝との出会い……シャルルとの出会い……祖母がわたしに伝えようとしていた『ホワイト』という言葉……
大アクィレイア中央市は、複雑な性格を帯びた街だ。
それは、宇宙から、恒星間連絡船の船窓から見ただけでも、それと知れた。――もちろん、大気圏外からの眺めは、縮尺のうんと小さい地図を見るようなもので、ほとんど抽象絵画を見るのと大差ない訳だけど、だからこそ逆に、街の特徴がはっきりと浮き彫りになっているともいえる。

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