『天使の翼』第6章(32)

 今回の海図には、わたしもちょっとだけ貢献した――
 「だったら名前はどう変える?」
 そういうのは苦手らしく、シャルルは肩をすくめた。
 こういうことは、即興で決めるに限る――
 シャンタルとチャールズ。
 それが、わたし達のアクィレイアでの名前だ。7時丁度に大広間に出向くと、久しぶりに招待した吟遊詩人の歌を聞こうと、すでに大勢の宮廷人、地元民らが集まっていた――こういう熱心な歓迎は、わたし達吟遊詩人の魂を熱くたぎらせてくれる。
 わたし達を出迎えた男爵は、先日のことなどなかったかのようなリラックスした表情で、でも、わたし達との約束は忘れていなかった。
 「後で、過去30年分の吟遊詩人の方々の招待リストを、お部屋の方にお届けしておきます」
 素早く忘れずに約束を実行してくれる人は、わたしの心の中の定義では、イコール信頼できる人だ。

 「こんなに大勢の方々が……嬉しいわ」
 わたしは、率直に自分の気持ちを語った。
 「わたくしの領星のような第三世界――」
 言いながらも、男爵の顔は決して卑下したものではなく、朗らかな笑みを浮かべていた――
 「――発展途上星では、人口が極端に首都へと集中する傾向があります。いざという時、すぐに人を集められるのです」
 ――起承転結、わたしの「起承」に続けて、男爵が「転結」と話の穂を継いだ。シャルルにも同じことが言えるけれど、どうも頭の回転の速い男性との会話は、最後まで聞かないと何を言っているのか分からないことがある。いきなり『第三世界』だもの……機知に富んでいると言えばいいのか……
 「――もちろん、人口集中には、メリットもあります。徴税システム一つとっても、低コストで効率的な運用が可能だ。帝国法典上、税は諸税に分かれていますが、徴税そのものは、惑星系単位で行われる決まりになっている。税別に中央が直接徴税することも、現今のワーム・ホール・コンピューター・ネットワークWHoCN(ウォークン)をもってすれば、十分可能ですが、それだと、皇帝の権力に亀裂が入って、所轄官庁の権力が強くなりすぎるからです……わが男爵家は、喜んで帝国の徴税請負人の務めを果たしますよ。――銀河帝国の聖徳なる統治、万歳!」

 「万歳!」
 「万歳!」
 男爵の取った音頭に、突如、会場のあちこちから唱和する声が上がり、わたし達もあわてて倣った。何故か、愛国心が刺激される。