『天使の翼』第6章(30)

 「デイテ」
 「……」
 「ここは、やはり、一番正統的な方法で行くのが良さそうだ」
 「『一番正統的な方法』?」
 「ごめん、デイテ。いろいろ考えながら話していると、表現が回りくどくなってしまうことがあるんだ。――つまり、正攻法ってことだよ」
 わたしは、思わず笑っていた。彼の説明が分かりやすかった、と同時に、依然として、『正攻法』とは何なのか、分からなかったからだ。
 シャルルは咳払いして――
 「悪の手下どもに後を付けられないように、敵地へ乗り込む」
 「……」
 「アクィレイアに着いた後も、僕たちだとは分からないことが好ましい……」
 「……変装?……変装するのね!」

 シャルルは頷いた。
 「まず、外見を変える必要がある」
 まるで、諜報活動を地で行くような状況になってきた。アドレナリンの分泌が活発になって、目的を達成しようとする意欲が、泉に湧く水のように吹き上がってきた……でも、待って!まさか、髪を切るなんてことに――
 シャルルの顔を見ると、またもわたしの心を読んだように――
 「聖薬査察庁の潜入活動訓練コースには、ヘアカットとメイキャップも含まれているんだ」
 そう言って、わたしの髪に優しく触れた。
 自分の髪に愛着の強いわたしは、言葉を失って凍り付いていた。
 「……冗談で言ったんじゃないよ。本当なんだ」
 シャルルって、何でも出来るのね……
 「……切らなきゃ駄目?」
 「強制するつもりは全くない。――ただ、ヘアスタイルを変えるというのは、とても効果的な方法だ。それに――」
 「『それに』……」

 「それに、ショートにした君、とても格好いいだろうな――」
 「馬鹿ね!」
 わたしは、シャルルの肩を思い切りひっぱたいた。叩きながらも、もうわたしの心は決まっていた。――切ろう。馬鹿なのは、わたしの方だ。