『天使の翼』第6章(29)

 「第二のオプションは、油断した振りをして、公爵――かどうかは、まだ分からないけれど――、その悪の手下にわざと捕まってしまう手だ」
 ……なんとなく予想できたことだけれど、それだけは、絶対嫌だと叫びたい……身の毛もよだつ……
 シャルルは、わたしの嫌悪感を察して――
 「ごめんね、デイテ。でも、この手には、決定的に有利な点がある」
 「……」
 「僕たちがスカルラッティ公爵を疑っているのは、あくまで状況証拠の域を出ない。もし違っていたら、3500光年かけてアクィレイアへ行くのは、全くの無駄足になってしまう。……その点、悪の手下どもにわざと捕まってしまえば、確実に、張本人のもとへと連れて行ってくれるという訳さ」
 わたしの心は、二つに引き裂かれた――死への恐怖と、そして、なんとしてでも両親の消息を確かめたいという思いに……ともすれば、わたしの気持ちは、後者に傾こうとする――もう知ることはないだろうと、半ば諦めかけていた両親の消息に、今ほど肉薄したことはないからだ。最初で最後のチャンスだと思う。どんな困難が待ち構えていても構わないという気持ちに……でも、次々とわたしの周囲で起きた出来事は、わたし自身をすっかり変えてしまっていた――現実に死と隣り合わせの危険な状況が、自分の身は自分で守らなくてはならない、という当たり前のことを教えてくれたのだ。安全は無料ではないし、当たり前のことでもない。今のわたしは、やみくもに突っ走ることの危険を知っていた――

 ふと顔を上げると、シャルルがじっとわたしのことを見詰めていた――まるで、わたしの心の葛藤を聞いていたみたいに……
 「とても危険な手だ……この手も実際には使えないね」
 ……選択肢の中の選択肢――シャルルと行動を共にするということは、常に、無数に枝分かれした可能性という名の選択肢の中から、最善と思われる一つ一つを選んで、自分たちの将来を作っていく、ということだ。シャルルと行動を共にした――とても長く感じられるけれども――短い日々の間に、わたしは、すでにシャルルの力強さの一端を見ていた。彼には、自分の未来を――もちろん予測可能な範囲でだが――自分で決めていこうとする意志の力があった……