『天使の翼』第6章(28)

 「ところで、デイテ――」
 シャルルが、改めて真剣な面持ちで語りかけてきた。
 「……」
 「僕たちは、明日の朝旅立つ、と、いうことになっている――」
 確かにそのように、男爵も交えて決めたのだが……
 「――公爵スカルラッティ十二世の司教座のある惑星アクィレイアは、ここミロルダとサンス球状星団を結んだ線から、方位角で僅か30度程のずれ、僕たちの本来の旅の目的にも都合よく、一気に3500光年の距離を稼ぐことができる――」
 「……」
 「――問題は、アクィレイアに行くのに、方法としていくつかのオプションが考えられるということだ」
 「オプションが……」
 わたしには、全く考え付かないことだった。
 「一つには、偽装で逮捕されるという手だ――」

 「偽装逮捕?……」
 シャルルは、頷いて見せた。
 「僕たちは、この星の着ワープ・ステーションで、聖薬配給庁の聖薬検査所のチェックを受ける前に、悪の手下どもの黒い船に襲われた。正当防衛が成立するけれども、形の上では、立派な聖薬法違反で、しかも重罪だ……」
 そうか……わたしにも、ようやく先が読めてきた。
 「……逮捕を装って、聖薬庁の手配した船でアクィレイアに行けば、それが一番安全な方法だ」
 これから先の船旅に漠然とした不安を感じていたわたしには、願ってもない話のように思えた――
 「ただし――」
 「『ただし』?」
 「この手を使うと、裏の事情を知らないはずの僕たちが、自らアクィレイアに飛び込んでいくという偶然、そして、聖薬庁の絡んだ船で来たということが知れた場合――」
 「疑われてしまうわ……」
 「そう、ただでさえ警戒心の強い連続犯は――だからこそ今までつかまらずにこれた訳だけれど――、硬い殻に閉じこもって、僕たちには一切係わらないようにするだろう」
 この手は使えない……ちょっと残念……