『天使の翼』第6章(22)

 「宰相は、あくまで名目上だが、バージニア・クリプトンの後援者代表ということになっている」
 「……」
 「――そのこと自体は、今度の件に関して、プラスにもマイナスにも働かないけれど……」
 ……それはそうだけれど、何か胡散臭い……わたしが色眼鏡で見ているからだろうか……
 「……メジャーな音楽業界に係わることで、吟遊詩人に対する異常な執着をカムフラージュしている、ともとれる」
 ……表の顔と裏の顔、正規の部下と悪の手下……つい先頃まで、そのようなことに頭を悩ませる必要のなかった自分が懐かしい――
 「ところで、今夜は、どんな歌をうたうんだい?」
 わたしの気持ちを察したのか、シャルルが急に話題を変えた。
 「――!わたしったら……全然考えてなかったわ……」
 「この前ポート・シルキーズの宇宙港で歌ったのは、失恋の歌だったよ――『希望――それは、恋する男の、昔からの幼馴染……』」

 シャルルは、悪戯っぽく笑んで見せた。
 わたしは、シャルルの肩を叩いた。――シャルルみたいな男性でも、失恋したことがあるのだろうか……
 「今度は、あなたが歌ってみる?」
 「とんでもない!遠慮しとくよ」
 わたしは、肩をすくめた。――さて、何を歌う?……恋に悩む男性の歌の続編?それとも――
 「君の歌を聞くのは二度目だね」
 シャルルが、じっとわたしの顔を見詰めて言った。