『天使の翼』第6章(15)

 シャルルは、男爵の方に改めて身を乗り出した。
 「殿下はどうですか?殿下の記憶にある封書と一致しますか?」
 若き男爵は、美しい顔で頷いた。
 「指揮官がわたくしの前のテーブルに置くとき、一瞥してすぐ分かりました――言葉で言うのは難しいですが、独特の風合いがあるのです」
(やっぱり!)
 「二者……いや、三者が一致したということは、僕は、これを確実な捜査――失礼、探索の足掛かりと位置付けていいと思う。――長年、男爵家と魅力的な吟遊詩人の招待合戦を繰り広げてきた、白い封書の使い手が存在して、今回その者は、デイテ――僕たちにも魔の手を伸ばしてきた。そして、それがうまくいかないと分かるや、金に糸目をつけずに、はるばる900光年の時空を超えて拉致しようと企んだ……いや、まだ、諦めた訳ではないでしょう……。一方で、ミロルダを含む半径100光年の範囲で、恒星間連絡船の不審事故が多発していて、その事故の態様が、今回の僕たちのケースと酷似している例がかなりあるという――白い封書の使い手は、長年に渡って、吟遊詩人に対する偏執的な欲望を、行動に移してきた可能性がある……実際にどのようなおぞましいことが行われているのかは、まだ分かりませんが……」
 ――その時、ふと、わたしは、ある事に気付いて男爵の視線を捉えた。

 「殿下、確か殿下は、わたし達に伝えたいことが三つある、とおっしゃいました」