『天使の翼』第6章(14)
白い封書の入った証拠品袋は、指揮官が言っていた通り、数十通……30点近くあって、律儀に、回収できた分全部を持ってきたものと見える。男爵は、そのうちの一つをシャルルに差し出した――もちろん、シャルルが会話を主導していたからで、男爵は、実際に白い封書を見たのがわたし一人だとは知らないのである。
わたしは、シャルルと一緒に白い封書を食い入るように見詰めた。
わたしは、記憶を呼び覚まそうと、シャルルから封書の入った袋を受け取り、かざしてみたり、撫でてみたりしたのだが、そうしながらも、わたし達に注がれる男爵の熱い視線を感じていた。――自ら仔細に検めてみようとしなかった男爵は、ちょっと見ただけで、前に見たものと同じだと直感したのだろうか……
「これだわ!この白い封書――」
わたしは、思わず知らず叫び声を上げていた。その未使用の白い封書の表面に、今にも、手書きのインクでデイテ殿という文字が浮かび上がってくるような、そんな幻想にわたしの心は捉えられていた。全身の産毛が、ざわざわと総毛立った。体温が一気に降下する……
人の記憶ほどあいまいなものはないと言う。でも、その毛羽立った感じ、微妙な白の風合い……。わたしは、確信した。
わたしは、シャルルの方を向いて、強く頷いた。
わたしを見詰め返すシャルルの視線に、強い光が宿っている――怒り・決意・行動……
わたしの両親の謎の失踪に対して、いくら巻き込まれた結果とはいえ、全力で取り組むシャルルの姿を見て、その時、わたしの心の中に、かえってブレーキをかけなくてはという思いが湧いた――わたし達には重い使命があるのだということ……どのように折り合いをつければいいのだろう……

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