『天使の翼』第8章(63)

 「……われわれの技術も長足の進歩を遂げたものだな」
 多くの犠牲者が聞かされたに違いない、獣たちの会話が続いた。
 「全くです、猊下」
 「最初は――」
 「最初は、そう、生身の体をただ保存液に漬けるだけでした……」
 修道僧の視線が、一瞬遠くを見る目付きになった。
 「そうだった」
 「どうしても体色が保存できず、皮膚の状態もツヤを失って、結局最後には腐ってしまった……」
 「まさか捨てるのを手伝わされるとは思わなんだぞ」
 今度は、修道僧が、クツクツと笑った。
 「申し訳ないことでした、猊下」
 「あの女体は、貴重なコレクションだったのだ……」
 その声色には、正真正銘の無念さが滲み出ていた。
 抜け目のない修道僧は、それを機に、さっと話を変えた。
 「そろそろ始めますか、猊下?」
 「よかろう」

 「どちらを先に?」
 『どちらを先に』!――シャルルを溶かすのと、わたしを樹脂に変えてしまうのと、どちらを優先するかですって!……同時にやらないということは、その間見ていなくてはならないということだ――
 スカルラッティは、舌なめずりしながら、わたしとシャルルを交互に見た。
 その時――
 突如、背後の扉の方で、『パン』と、何かがはじけるような爆発音がした。